『恋のＢＵＳ・ＳＴＯＰ』

『恋のＢＵＳ・ＳＴＯＰ』

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　バス停からその人が乗り込んで来たとき、あたし、ときめいちゃったんです。あたし、四日市の高校に通っている女子高生。毎日、駅までこのバスに乗っているんだけど、その人を見るのは、はぢめて。年の頃は、そう、３３ぐらいかしら？その人、山田花子を性転換させたような、とってもシャープなルックスなんです。朝、頭から水をかぶって、そのまま自然乾燥させたような、ナチュラルなヘアスタイル。昔はヨーグルトの汁なんかをつけていたのかも知れないけど、今はヘアムースも使ってないみたい。来週の土曜日には床屋にいかんとアカンな。とでも思っているのかしら？時々、うるさそうに額に垂れかかる前髪を、無造作に掻きあげる。その仕草がまた、とってもセクシー。あたし、かき揚げうどんが結構好きなんだけど、髪を掻きあげる仕草にも弱いんです。

　あたし、バスの後ろのほうに座っているんだけど、彼は通路を挟んだ１つ前の座席。だから彼の姿、よく見えるんです。彼、とても洒落たいいスーツを着てる。あれはきっと、トリイの２パンツ・スーツじゃないかな？２パンツ・スーツって、スーツを買うとパンツが２つも付いてきて、とってもお得よね？あたしだったら、１枚目は純白のおとなしめのにして、もう１枚はちょっぴり冒険して、黒のレース（すけすけ♪）にしちゃうかも？…って、そういうパンツが付いてくるんじゃないんだけど、あ、いま、彼、ちょっとあたしのほうを見たー。もしかして、あたしのこと意識してるぅ？ウフ♪思い切って、脚を組みかえるふりをして、ちらっとパンツを見せちゃおうカナ？彼ったら、とっても女子高生のパンツと、ちくわの磯辺揚げが好きそうな顔してるから、喜んでくれるかもね？…って、あ～ん、駄目駄目。あたし、とっても純情なんです。だからそんな恥ずかしい真似は出来ないの。。。あ、でもでも。彼の名前だけでも知りたいナ。 …と、ちょうどそのとき。純真なオトメの祈りが神サマに通じたのかしら。彼の携帯が鳴ったの。着メロは「宇宙戦艦ヤマト」？あ～ん、とってもセンス抜群よね？で、彼、鞄から携帯を取り出して、こう言ったの。

　「はい、いなばですけどぉ。」

彼、いなばさんって言うんだぁ。とってもいいお名前。やっぱりイナバ。１００人乗っても大丈夫って感じ？あ、でもでも。バスはもうすぐ駅に着いちゃうの。バスを降りれば、彼はもうどこかへ行ってしまう。バス・ストップがあたしの恋の終着駅？あ～ん、そんなのイヤ。切ないこの気持ち、何とか彼に伝えたいの。でもでも、純情なあたしにはその勇気がないの。。。せめて彼がもう一度このバスに乗ったときに、あたしの気持ちに気付いてくれさえすれば。あたし、祈るような気持ちで座席の背もたれに書いたんです。ありったけの思いを込めて。

　　『いなばさん最高！！ウフ♪』

　…とまあ、こういうシチュエーションで書かれたんじゃないでしょうかね？このバスの座席の落書きは。

　　（三交バス「市内Ａ循環」の車内にて撮影）