『しかまん』
しかを食べました。とんでもないことをしてしまいました。最初に謝っておきます。世の中には牛、豚、馬、羊、猿、鶏、犬、猪…など、いろいろな種類の動物がおりますが、大きく分けると２種類に分類することが出来ます。すなわち、食べてもいい動物と、食べるには少し抵抗のある動物の２種類なんですが、鹿なんていうのは一般的な感覚で言うと、やはり後者に属するグループであるといえましょう。人間をして「食べてはいけない。」という気持ちを抱かせる要因として、だいたい３のパターンが考えられると思うんですが、まず第１は「賢い動物だから食べてはいけない。」という考え方ですね。イルカというのは元をただせばクジラの親戚筋みたいなものなんですが、それでもイルカをノルウェー風にして食べちゃおうという気があまり起こらないのは、やはりイルカが非常に賢い動物であるという認識があるからでしょう。そんなこと言ったら、クジラだって元来はイルカの親戚筋みたいなものだから、決してアホというわけではないとは思うんですが、そこはそれ、「大男、総身に知恵がまわりかね。」という差別用語スレスレの言葉もあることですし、図体がでかい分だけちょっぴりアホっぽいような気がしないでもないので、イルカほどには抵抗がないわけでありまして。
で、２つめとしては、「かわいいから、食べるには忍びない。」という発想ですね。これもまあ気持ちとしてはワカランでもないんですが、韓国では犬だって食べちゃいますし、沖縄では本土から遊びに来た姪っ子が昼間、「メーメーやぎさんだぁ♪」と仲良く遊んでいたヤギさんを、その日の夜にはヤギ汁にして食べちゃったりするので、要はまあ、心の持ちようということでありましょう。ウシさんだってブタさんだって、３日も飼ってみれば情が移っちゃうと思うんですが、それでも情け容赦なく売り飛ばしちゃったりするわけですしね。で、３番目として、「食べても不味いから、食べない。」というパターンもあろうかと思いますが、鹿さんの場合は「かわいい」というのが、あまり食べる気が起こらない主要な要因でありましょう。子鹿のバンビは、かわいいなぁ〜♪という歌だってありますしね。それでも人間、せっぱつまると「かわいいから食べるに忍びない。」などと悠長なことを言ってる場合でなく、他に食うものが何もないような山奥において、鹿ちゃんは貴重なタンパク源として珍重されているのも事実であります。栃木県の山奥のほうには鹿を馬とセットにした馬鹿料理なんていうのが名物の地域もあるみたいですしね。賢い動物を食べちゃうのは抵抗があるけど、どっせバカなんだからイイやぁ。…とか思ってるんでしょうかね？で、馬とセット販売しているかどうかは知りませんが、長野県は南アルプスの麓の地域でもよく鹿が食べられていることは周知の事実です。ま、この地域の住民というのは食うに事欠いてイナゴだの蜂の子だのザザムシなどを食っているわけなので、鹿なんてのはもの凄く高級な食材なんだと思われますが、僕が鹿を食べちゃったのも、この地域でのことでございます。
中央自動車道の小黒川パーキングエリア。それが問題の場所なんですが、いや、鹿なんてものは山奥の秘境の一件宿にでも行って、あらかじめ予約でもしておかないと食べられないものかと思っていたら、意外と身近なところにあるものなんですね。テイクアウトの店で「たこ焼き」かなんかと一緒に売ってましたもんね。東海林さだおのエッセイにも鹿を食べた話が出ておりましたが、ショージ君の場合は鹿サラミというのも食べたんだそうです。普通、そこまでするか？鹿をサラミまで持っていくか？…とショージ君は疑問を呈しておられましたが、僕が食べたのはサラミではありません。しかまん （３５０えん）です。肉まん・あんまんの肉やあんをしかに変えたものだと思っていただければいいわけでありますが、かなり大ぶりであるとは言え、一見したところ普通の肉まんと大差はありません。唯一、アタマのところにしかという焼き印が押されているところがしかまんらしさをアピールしていると言えますが、さて問題のお味のほうは…？
………。いや、鹿肉がシカ臭いとか、イカ臭いとか、そういうことはまったくないんですけどね。鹿肉自体はミンチになっていて何の肉なんだかさっぱりわからないので、とりたてて問題はありません。強いて言えば、「わざわざ鹿肉を使った意味が一体どこにあると言うんだ？」という疑問が沸き起こるという点に問題があるわけなんですが、それより、もっと問題 なのは味付けのほうでありまして。。。普通の肉まんのような中華風の味ではなく、何というか、ものすごく味の薄い肉じゃが風の味なんですよね。わざわざこんな存在感の薄い味をつけるなら、いっそのこと何の味付けもしないほうがマシなのではないか？…という気がしないでもない、そういったシロモノでございました。今後の人生において、しかまんを食うのだけはヤメよう。。。しかと心に誓った僕は、静かにクルマを発進させたのでありました。
