『塩サバ５号の“おろしや国紀行”（その９）』

『塩サバ５号の“おろしや国紀行”（その９）』

　ハンドル名が「真鯉鯛ナー」に決定した塩サバ５号さま。さ、これからは彼のことを「真鯉（まっこい）」と呼ぼう！ひさびさの「おろしや国紀行（その９）」でぇす。

　何番ホームか知らないけれど私達の乗るらしい列車の前に荷物運搬車が止り、ロシア人のポーターが沢山のトランクを必死の形相で積み込み始めました。力のある我が団員も手伝っています。時刻はまだ２３時１０分にもならず、発車時間の２３時３５分には十分に間があるのに、ポーターの動きがただ事ではありません。どうしたんでしょう。同行のロシア青年通訳、マックはのんびり立っています。後になった１３人はまだ姿を現していません。ト、ト、突然、列車が汽笛一声なしに、即ち音も無くウゴキダシタではあーりませんか！！！

　ト、ト、ととや。いや昔、桑名にあったサカナ屋の名前なんですが。そのまんまやん！という感じですね。今でもあるのか？ととや。もう１件、「くさりや」というサカナ屋もありました。新鮮なお魚のくさりや。説得力皆無。

　どーしてロシアでは、こうビックリばっかっりさせられるんだろう。

　「どーしたんだぁ。大変だぁ。乗れ、乗れ。」

あわてて飛び乗った私達のあとにポーターさんが最後のトランクを放り込み、汽車を追いかけながら何か叫んでいます。あわてて荷物を一緒に投げ込んだ団員が窓から首を出し日本語で

「なんですかー？」

「チップ。チップ。」

「オーッ。チップだってぇー。」

　そういえば「Ｏｈ！チップ」というポテトチップがありませんでしたっけ。「チップ」と言われてポテトチップを出すようなオヤジ、社員旅行だと必ず１人はいますよね。営業部の係長、山口啓一（仮名・３８歳）とか。こういう人です、温泉宿でお座敷ストリップ呼ぶのは。いや私は若者だから「お座リップ」には興味ありませんが。

　・・・しかし汽車はスピードを上げ初めています。

「スミマセーン。この次ねー。サヨーナラー。」

「ころすぞー」と、右手で首を横に切るジェスチャーをしているポーターさんと後続部隊を残して、まず私達２３人だけがモスクワを後にしたのでありまーす。汽車は出て行く、煙りはのこるー。残る煙りは・・・あ、これは電気で動いてるんだ・・・ここで遂に異境の地で涙の別れとなってしまった老御夫婦も１組出現。カワイソー。

　　水辺に住むイタチ科の動物ぅ？それはカワウソー。誰でも考えつくな。基本を押さえた、いいボケであると言えるでしょう。（←ものは言いよう。）

　こんなことの起こることも、実はあの預言書「地球の歩き方・ソ連」にチャントあったんですねー。それはですねー。エート、アブラカダブラー。「日本で出発前に調べた列車時刻と、現地の時刻が１時間くらいちがうことがザラにある・・・。」マッタクー。

　とっても高価なキノコぉ？それはマツタケー。誰でも考えつくな。今日のぼく、ちょっぴり夏休みボケぎみ。

　これすなわち発車時間が「２０分」繰り上がっていたという訳ですねー。これもみんな確認しなかった添乗員さんが悪いのだー。でも彼も添乗してこの国に来たのは始めてなのでは。そうでなければこんなヘマをするはずがない。私達は無論、彼にとってもとんだ災難。クワバラ、クワバラ。後に残った人たちの中には英語を話せる添乗員さん一人がいるだけ。どーなったかなー。手も足も出ない私達はただただ為す術もなく鳩首凝議（意味のわかんない人は、キュウシュギョウギで辞書をひいてね）。

　こめかみをフォークで突いたり、みぞおちにパンチ入れたり、タマを蹴ったり？（←それは急所攻撃。）九州のギョーザ？（←それは九州餃子。ひねりなし。）出来のいい相撲の審判？（←それは優秀行司。意味なし。）読んでるほうもツライだろうが、書いてる本人もツライのだ。長い人生、そんな日もあるさ。

　ここで通訳のロシア人・マック君の責任は重大です。彼は早速女車掌さん（車掌さんはほとんどみんな女性）と盛んに相談しています。マックが団員全員の切符を持ってきてしまっているので、残された人たちの分の切符を女（この際女性であることは関係ない）車掌さんが持って次の駅で降り、反対方向の汽車に乗りモスクワ駅じゃなくてサンクト・ペテルブルグ駅まで戻り、次の汽車に乗れるよう手配する、と話しているのを耳にしたと情報をもたらしてくれた団員がいました。

　ほう、女車掌。いいっすねぇ。なにがいいのか？と追及されると困るんですが、少なくとも「おっさん車掌」よりはいいです。バスガイドも女の人のほうがいいですね。小学校の就学旅行の時のバスガイド、どういうわけだかオッサンだったもんな。あと、アピタというスーパーのメンテナンス担当も出来ることなら「お姉さん」がいいと思います。「ぼくね、ちょっと失敗しちゃってね、エンジン壊しちゃったのぉ。」なんて報告すると、「まあ、かわいそー。人間、誰だって失敗はあるのよ。さ、元気だして。お寿司おごってあげるから。」なんて慰めてくれて。彼女は２７歳・人妻なんだけど、夫が浮気モノで悩んでいるわけなんですよね。あとはえーと、なるよーになれ、です。

　おや、我が団員のなかにロシア語会話ができる人がいるんですねー。これについてはやはり最後に触れましょうね。同乗の女（しつこい！）車掌さんどうしたのかしら。お茶のサービスなんかあるっても聞いたけど。トラブル発生でそれどころでないのかしら。でもお茶もってきてもらいたいなー。どん人なんだろう。顔を見たいなー（実はサービスに來たはずなのに、全く印象に残らなかったもよう）。

　ほう、お茶のサービス。いいなぁ。ついでに寿司のサービスもお願いしますぅ。「さらに３万円払えばマル秘サービスがありまっせ、ダンナ。」なんてポン引き風の黒眼鏡男に耳打ちされて、係長の山口啓一、思わず払っちゃいます。待つこと１０分、ついにやって来た女車掌、隣の席に座って急須から湯呑みにお茶を注ぐと、その横に魚肉ソーセージを１本置いて去っていってしまいます。山口さんは茫然として叫びますね。

「しまった、“まるは”サービスだった！」

　とは言いながらも、事態の急変に意気のあがらない私達はシャンパンを飲む元気もなく、後はマック君にまかせてもう寝よう、とせっかくの夜行寝台の旅もガラガラのコンパートメントで寂しく毛布を引っかぶると言う空しい結末で幕。寝苦しい長い夜となりました。さて、残された人たちは・・・

　コンパートメントの隣の女車掌を夢見た山口係長の心境やいかに？この話、次回へ続きます。ではまた。

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